なつかしの本を引っ張り出して

上の現実・幻想について、私の現実認識に最も影響を与えたと思われる人が書いた本を読み返した。はるか書房から出ている「大学デビューのための哲学」という、名前だけ聞くと恥ずかしい本*1が、今後なにがあっても手放さない本の1つだ。駿台予備校講師の霜栄・大島保彦・入不二基義による共著で、特に霜さんは駿台生だった頃から大好きだった人。熱い文章と氷のような冷たい目がよかった。

まじめと区別つかないほどの熱い出来心でふざけつづけ、生活こそが唯一の旅であることを忘れず、現実の不幸を忘れるためにでなく現在の幸福のためにのみ夢を見よう。

それぞれなどという相対主義的観念、ほどほどという現実ぶった視点が、安定していて広い視野をもたらすような錯覚をもしも僕らに与えるとすれば、その視点が現実の波しぶきを浴びない非現実的で抽象的なものにすぎないからだ。現実主義者は決して現実的ではない。それぞれの現実やそれぞれの幸せなどは、どこにも存在しない観念なのだから。あるのは、この身体で波打っているだけの君の現実と君の幸せ。君だけの必然性が君を導いて行く。

ロマンティストはすべての現実との出会いを避け、ただ現実世界についてのイメージと物語をつくりあげるだけ。

もう、全編がこの調子だ。頭がいい人の文章なので、頭をかなり使わさせる。何度読んでもついていけないところがある。「生と自己とスタイルと」もだけど、かなり「わからないならわからなくていいよ。君を永遠に置いてけぼりにして、僕は孤独でも全然構わないんだ」的な声がある。この人は哲学科卒なはずだけど、哲学科って、底知れないな…と思ってしまう。一度哲学科の授業をちらっと見た(多分ニーチェとかがテーマ。)が、教師が微妙に若くて(40歳ちょっとくらい)静かなのに思想が波打ってそうで、学生も95%男子、マッチョな知的世間ズレを感じさせて、怖じ気づいて行くのをやめてしまった。哲学科には、なにかがある……。

*1:はまぞうででもリンクが出てこない。絶版の可能性は十分にある。いい本なのになあ。