女に生まれるだけでなく。

藤本和子さんの、黒人の女性たちへのインタビュー本。藤本さんのことばは、現実に根ざしていながら、幻想的に放たれる。すっごいどきどきしながら読んだけど、読み終わってみると胸一杯で言葉がじょうずに出てこない。

黒人社会で生起することがらの半分も英語では描写しうたいあげることができない。現在でも黒人共同体の暮らしには言葉で描写できないことが、定義する言語がないことが多い。社会科学の対象となるべき事象、現象なのにそれを定義できる、適切な用語が存在しないのね。そういう事象、現象は認識されない。偏見のある目には見えない。詩人でも表現しきれないようなこと。新しい言語が生み出される必要があるのよ。

ぜんぶ言葉で表現できるはずだ、というのは思い上がりだし、言葉で表現できることを表情でしめすのは、優しさかもしれないし保身かもしれない。言葉は社会の中で不自由になって、力を持ちうる言葉は地道に確実に、力を削がれていく。でもそういったことを越えて、新しい言語が生み出されるのかもしれない、と思った。手をこまねいていちゃいけないんだろう。箱の中に入って同情されるわけにはいかないんだと思う。女という箱の中にも、好きな誰かの箱の中にも、入っちゃいけないんだと思う。その箱がきれいに飾られていても、その中の空気が心地よくても。
この本は、ちょっと手に入りにくい本だと思うけど、図書館なんかにはあると思うし(文京区図書館にはあった。倉庫にあるらしいけど。)、すごくいい本だから、多くの人に読まれるといいな。