ナショ・スト・プロごっこ*1

世界の全てが私よりも長身だったころ、家族とお祭りに出かけた。なにしろ見える範囲が少ないので具体的な催しは覚えていないが、広々としたところに人がたくさんいた。
私は家族からはぐれて、迷っていた。必死に走り回った。
パパだ! パパを見つけて足に抱きついた。「パパ!」
その足は全然パパではない大人の男性のものだった。私は驚いて、逃げ去ってしまった。
それから先は覚えていないけど、無事に家族に会えたのだろう。


十年後、同じ祭で、私は父を見つけることになる。
ただし、家族としてでなく。父は私たちの元を去って、二度目の結婚をしていた。彼の妻と、子供たちと、私は対面したのだ。お互いにやや気まずく、父は私にお小遣いだと言って三千円を渡した。父はほとんどパパではなかった。


母親になった今、子供が足にぎゅっとしがみついてくることがある。あの日に他人の足にしがみついた思い出は、もう報われなかった関係性の暗示ではない。多分、愛情の証なのだ。