- 作者: 平山瑞穂
- 出版社/メーカー: 新潮社
- 発売日: 2006/02/20
- メディア: 単行本
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彼女はもしかして、自分自身が存在している「証拠」を、極力残すまいとしているのではないだろうか。でもだったらなぜ、ビデオに撮られることは承諾したのだろう?p187
あずさは
「証拠」だって、誰なんだかわからなくなっちゃって、見る人が混乱するだけじゃない?p260
と説明しているが、証拠を残さないのが、のちに起こりうる他人の混乱を防ぐため、であるなら、彼女は消えることを受容していても、積極的に消えたいというわけではなさそう。あずさは、消える運命を諦めていながら、「消えたくない」「本当は存在したかった!」と、熱っぽいほどに、思っているようだった。(だからビデオ撮影はOKだったのかな?)物語的だと思った。不思議な設定でありながら、心の中にわだかまりというか、腑に落ちない感じを残さない、…ハッピーエンドだ。文章に、記憶に、全然クリーシェ的でない方法で近づいていく感じがずっとしていたけど、最後に一気にクリーシェで終わったように思えた。あずさは時々消え、時と場にちゃんと属せない。(もともと帰国だし、周りにそぐわない感じはあったろうけど。)そういうのって一種のメランコリーだけど、メランコリーが普通抱える不安定が希薄だし、物語の結末が近づくと、ますます物語は安定していく。
なんか批判しているみたいけどすごく面白かった。最後とか、主人公がひどく前向きなところが、全然嫌みじゃなかった。そういうのって、すごいよね。(さっきメランコリーと書いたけど、ポジティブに転化できるメランコリーっていうのは多分ないから、メランコリーとは言えないのだろう。)
あずさの存在って、たとえばスピッツのPVに出てくるかわいくて現実感のない女の子、みたいな不思議な感じがするけど、主人公の男の子も、ちょっと幻想味を帯びたグッド・ボーイで。こういう自分を「ぼく」って呼ぶナイーブで丁寧でまじめで若くそこそこ勉強もできる男の子よくブログで見かけるけど実際どんな人なのかね?みたいなね。